【連載第3回】わたしと向き合うための産婦人科のはなし「女性のQOLが上がる産婦人科との付き合い方」編
家事、仕事、子育てと、多忙な日々を送る女性。あなたは、ご自身のカラダのことをどのくらい理解していますか?体の調子が悪かったり、心のバランスがとれなかったり・・・それでも頑張らないといけない毎日の隙間に、自分を見つめ直す時間を作って欲しいーそんな思いで立ち上げた連載の第3回目。
今回も、株式会社Inazmaの代表であり、ゼロマチクリニック天神を運営する古賀俊介先生にお話をしていただきます。第3回目のテーマは「女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上」について。昔よりアクティブに働く女性が、より良い人生を送るために、産婦人科でできることを伺いました。
連載第1回の記事はこちらから
【連載第1回】わたしと向き合うための産婦人科のはなし「産科・婦人科ってなんだろう?」編
連載第2回の記事はこちらから
【連載第2回】わたしと向き合うための産婦人科のはなし「月経不順と生理のアレコレ」編】
Profile●古賀俊介さん/1989年福岡県出身、筑波大学医学群医学類卒業。産婦人科医であり、エンジニアとしてシステム開発にも携わる。2019年に医療機関向けソフトウェア開発を手掛ける株式会社Inazmaを設立。2021年にゼロマチクリニック天神(天神2丁目ソラリアステージビルM2F)を開業。Twitter https://twitter.com/_kogax_ |
心と体のつらさを抱え込まないで。医療介入で改善できることも多くあります
―女性のQOLを上げるということを考えると、やはり月経に関することが気になります。
古賀俊介先生(以下、古賀):
前回(【連載第2回】わたしと向き合うための産婦人科のはなし「月経不順と生理のアレコレ」編】)お話しした通り、月経についてのお悩みは医療介入で解決できるケースは多くあります。生理不順が気になる方だけではなく、PMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)や生理痛が疑われる方にも、気軽に受診いただきたいです。
PMSは年代を問わずよく相談をいただきます。「イライラする」「情緒不安定になる」といった精神症状から、「腹痛」「頭痛」「腰痛」「むくみ」「眠くなる」などの身体症状まで様々なので、実は診断が難しいのです。女性ホルモンが関係していると言われていますが、まだわからないことも多くて。PMSは月経前(3日前〜1週間前)に症状が現れ、月経が始まると症状が軽減する傾向にあります。生理痛でお悩みの方も少なくありません。こちらも症状は様々ですが、おなかや腰まわりに痛みを感じる方、それによって頭痛や吐き気をもよおす方もいます。
PMSや生理痛に対して、クリニックでは、患者さんのお話を伺いながら漢方薬か低用量ピルを処方するケースが多いです。漢方薬は対症療法という側面が大きく、即効性はありませんが長く飲み続けることで症状を緩和します。1日2~3回薬を飲むのが苦痛でない方がよく選択されていますね。低用量ピルは1日1回の服用でOK。ただし、ピルは効果がよくても、PMS単体だと保険診療で処方ができないので注意が必要です。
痛みの許容度は人によって異なるものなので、ご自身が「症状によって日常生活に支障を来たしている」と感じた時が受診のタイミングです。漢方を飲む、低用量ピルを服用するということは、少なからず日常生活を変えるということ。月経にまつわる体の不調を改善するというメリットと比べて選択していただけたらと思います。
ピルの服用以外で月経の悩みを改善する方法としては「ミレーナ」に注目しています。「ミレーナ」とは、子宮内から黄体ホルモンを持続的に放出することで、妊娠を防いだり、月経量の減少の他に、時間が経つと月経が止まることもあります。一度の装着で最長5年効果が持続します。またピルの服用と比べても、長い目でみれば金額が抑えられ手間もかかりません。定期的な検診は必要ですが、産婦人科にかかる機会が増えることは悪いことではないはずです。
最近では、フェムテック(FemTech)・フェムケア(Femcare)の進化によって、女性が快適に過ごせるためのテクノロジーや製品も増えてきていますよね。月経に関するものでいうと「月経カップ」や、ナプキン不要の「吸水ショーツ」などは、女性産婦人科医や身近な女性スタッフからの良い評判を聞きます。痛みや苦痛を我慢せず、便利なアイテムは試してみる・・・そうすることで、月経にまつわる心と体の負担を少しでも減らしていただけたらと思います。
更年期障害はいつかやってくるもの。予備知識を持つことが第一歩
―更年期障害について、なにかできることはあるのでしょうか?
古賀:
閉経に向かって女性ホルモンが低下していくことで起きる更年期の症状。早い方では40歳くらい、平均的には40代半ばから後半くらいで症状があらわれます。症状や程度は個人差が大きく、まったく症状が出ない方もいらっしゃいます。
よく知られているのが「ホットフラッシュ」。のぼせたり、ほてったり、急に発汗する症状です。ほかにも精神症状、身体症状ともに幅広く、日常生活に支障をきたす方は早めの受診をおすすめします。治療にあたる前に、採血や超音波検査、がん検診などを行ってほかの病気の疑いがないかもチェックすることが重要です。更年期障害の代表的な対処法としては「ホルモン補充療法」が挙げられます。貼り薬、飲み薬、塗り薬(ジェル)などでホルモンを補充するものです。
更年期障害については、女性なら誰しも症状が出る可能性があると考えて、代表的な症状を知っておくことが大切です。「もしかして、これは更年期障害の一種かも?」と気づくことが第一歩。また、食生活の改善や質の良い睡眠、運動をすることで、症状が改善されるケースもあります。
早期発見ができていたら・・・働く女性の後悔を減らすためには?
―女性のQOLの向上のためには、月経との付き合い方の工夫と、更年期への備えが必要ですね。働く女性が気をつけたい病気や症状などはありますか?
古賀:
クリニックで診察することが多いのは、女性の貧血症状ですね。貧血は「疲れやすさ」「めまい」「動悸」などを引き起こし、体の不調が出やすくなります。健康診断の数値で気づいて受診される方もいるので、当てはまる方は内科の受診をおすすめします。
働く女性に特に気をつけていただきたいのは、無症状ではじまる病気。例えば「卵巣がん」はサイレントキラーと言われることもあり、腫瘍が大きくなるまで症状が出づらい特徴があるのです。気づいた頃には進行していた・・・ということも。また、性交渉の経験がある方は、定期的に「クラミジア」の検査もおすすめです。症状がない人も多く、実は感染していたという人もいるのですが、放置すると卵管の詰まりを引き起こし、不妊症の原因になります。
例に出した「卵巣がん」や「クラミジア」は、早期発見・早期治療につながってほしいです。定期的な婦人科検診は、女性のQOL向上のカギといえます。
女性だけでがんばらない。悩みや現状をシェアすることも大切
―ここまで、女性個人のQOLについてお伺いしてきました。次は、パートナーや家族とのよりよい生活について、産婦人科でできることを教えてください。まずは、妊娠を希望した時にやっておいた方がいいことなどありますか?例えば「ブライダルチェック」についてどう思いますか?
古賀:
「ブライダルチェック」(結婚前の女性を対象とした検診)は、自由診療となるため検査内容や金額が病院ごとに異なります。妊娠が発覚した時に産婦人科の初診で行う検査を、妊娠前にやるイメージで、内容は血糖値の検査、子宮がん・子宮頸がん検査、性感染症検査などです。
個人的には、女性にもパートナーにも「風しん抗体検査」「風しん予防接種」を受けていただきたいですね。妊娠初期で母体が風しんに感染すると、先天性風しん症候群の子どもが生まれる確率が高まります。風しんのワクチンを打つと2ヶ月は避妊の必要があり、妊娠してしまうとワクチンは打てないので、なるべく早く抗体の有無を確認し、必要に応じてワクチン接種することが重要です。
―産婦人科医の立場から、女性のためにパートナーや家族と話して欲しいことはありますか?
古賀:
女性からパートナーに向けて、生理のことをオープンにしておくことは大事だと思っています。生理そのものや、個人の症状などを知っておいてもらった方が、長い人生一緒にいるのならコストパフォーマンスがいい。男性も生理について知っているようで知らないことはまだまだ多くありますから。
また、妊娠希望の方にお伝えしたいのは、妊娠のためには様々なリスクを排除する必要があるということ。高齢出産が珍しくない世の中になったとはいえ、無事に産まれてくる子どもがいる一方、そうではない悲しい思いをされている方もいます。加齢はリスクであると受け止め、たばこやアルコールなどの嗜好品をコントロールすることも必要です。
個人的には、未来のために10代女子が産婦人科に受診をするハードルを下げていけたらと思っています。現役で働くママはもちろんですが、子どもが正しい知識を身につけて、女性特有の病気や症状に悩むことが少なくなってほしい。10代で産婦人科にかかる場合、親が同伴することが多いはず。親世代の常識と、今の常識にズレが生じていることは珍しくありません。子どもは親を見ているので、親が言ったことを鵜呑みにして、後悔することになった・・・ということも。もし、子どもと一緒に産婦人科を受診する際には、親も子どもと一緒に“今を学ぶ”というスタンスで来ていただけると嬉しいです。
さいごに
心と体は自分だけのもの。日頃からちょっとした不調に気付けることも大事ですが、忙しい日々の中でそう上手くいかないというのが現実ですよね。気軽な相談や定期検診、国や自治体が推奨する制度を賢く利用することは、女性のQOL向上に直結すると改めて感じました。
様々なメディアで女性の病気が取り上げられていますが、その中から正しい情報を取得するのは難しくなる一方です。「女性特有の病気や症状について、どのような情報を参考にしたらいいでしょうか?」という質問に、古賀先生は「クリニックでの相談がおすすめ」と回答してくれました。医師も患者も人間同士、かかりつけで関係性が構築されると、患者側は気軽な相談がしやすく、医師もちょっとした気づきをシェアしやすくなるというメリットが。産婦人科というサードプレイスを見つけて、女性の人生を楽しく過ごしましょう!
machi
2歳差の兄弟と子煩悩なパパと楽しく生活中。食べると泊まるが大好きで、甘いものも嗜みます。
ライター紹介
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